16-17GPシリーズ 第1戦スケートアメリカ 男女シングルまとめ
GPシリーズ開幕戦、スケートアメリカのデータをまとめておきたいと思います。
まずは女子からいきましょう。
結果は以下の通り。(カッコ内はSP+FSの得点、その横の数字はSPとFSの順位)
1 アシュリー・ワグナー 196.44(69.50+126.94) SP1 FS2
2 マライア・ベル 191.59(60.92+130.67) SP6 FS1
3 三原舞依 189.28(65.75+123.53) SP3 FS3
4 ガブリエル・デールマン 186.63(64.49+122.14) SP4 FS4
5 グレイシー・ゴールド 184.22(64.87+119.35) SP3 FS5
6 浅田真央 176.78(64.47+112.31) SP5 FS6
7 セラフィマ・サハノヴィッチ 163.84(56.52+107.32) SP8 FS7
8 パク・ソヨン 161.36(58.16+103.20) SP7 FS8
9 ロベルタ・ロデギエーロ 149.13(52.62+ 96.51) SP9 FS10
10 村上佳菜子 145.03(47.87+ 97.16) SP10 FS9
11 アンゲリーナ・クチヴァルスカ 134.97(47.80+ 87.17) SP11 FS11
リプニツカヤがけがで欠場となったものの、そうそうたるメンバーがそろったシリーズ開幕戦を制したのは地元アメリカのワグナーでした。
ジャンプで回転不足をSP、FS合わせて3度取られたり、スピンやステップでもレベルを取りこぼしたりと、まだまだ改善すべき点はあるとはいえ、それでも190点台後半に乗せてしまうのはさすが。
その高得点を支えているのは他選手を圧倒するPCSの高さです。
ほとんどが8点台後半で、FSのINでは9点台をマークするなど、貫録を見せました。
彼女にとってはシーズン初戦だったのですが、すでにある程度曲を自分の物にしているように感じたのは私だけではないはずです。
5年連続のファイナルに向けて好スタートを切りました。
2位に入ったのはこちらも地元アメリカのベル。
今大会最大のサプライズといっても過言ではないでしょう。
なにしろアンジェラ・ワンの欠場により急きょ出場が決まり、昨シーズンまでのPBは160点そこそこだった選手です。
それが今シーズン、9月のUSインターナショナルクラシックで184.22とPBを大幅に更新して宮原に次ぐ2位。
そして今回、そのPBをSP、FSともにさらに更新しました。
PCSは地元補正かな?と思うぐらい高めに出ていましたが、目立つミスはなかったですし、ジャンプは非常に質が高いものを持っているなと感じたので、TESは納得の数字でした。
今のところ今大会のみの出場なのでファイナル進出は無理ですが、今回のようにけが等で枠が空けば2大会目に出られる可能性もあります。
アメリカにまた期待の選手が現れました。
そして3位にはシリーズデビュー戦となる17歳の三原が入りました。
これもベルほどでないにせよサプライズだったとは思います。
ですが、プレビュー記事でも挙げたとおり、昨年JGPファイナルに残るほどの実力がある上に、今シーズンもすでに9月のネーベルホルン杯で189点台のPBで、トゥクタミシェワやデールマンらを抑えて優勝をしていました。
今回も189点台の得点でPBを更新しての3位なので、表彰台に上がるべくして上がったと言えます。
また、JGPファイナルの時期に若年性特発性関節炎という難病を発症し、4か月も競技から離れざるを得ないという困難を乗り越えての結果ですから、本人の喜びもひとしおでしょう。
そして何より、憧れの選手と公言する浅田真央と同じ舞台に立てたということが、大きくプラスに働いたことは間違いありません。
演技を見て一番感じたのはジャンプの高さ。
3Lz+3Tという、高難度のジャンプも難しくなさそうに見えたのがとても印象的でした。
さらに、スケーティング技術の高さにも驚きました。
実際、PCSもほとんどが7点台後半と、シニア1年目の選手としては非常に高い評価を受けました。
そして、何より大舞台にも動じない精神力です。
プレッシャーを感じているというより、何よりも大好きなスケートを楽しんでいることが表情や動きから感じられ、微笑ましく見ていました。
病気の影響で、滑り込みがまだ足らないと思いますので、後半のスタミナが今後の課題だと思います。
ワグナー、ラジオノワ、本郷、トゥクタミシェワなどの強豪がそろう中国杯の結果次第ではファイナル進出もあり得ますので、ぜひ頑張ってほしいですね。
4位に入ったのはデールマン。
GPシリーズでは自己最高位となります。
SPでは全選手唯一、スピン・ステップ全てでレベル4を獲得。
ジャンプでいくつかミスはあったものの、うまく演技をまとめることができていました。
かなりベテランの雰囲気がありますが、まだ18歳。
このところ不振が続くカナダ女子を引っ張っていく存在になれるでしょうか。
ゴールドは精彩を欠いてまさかの5位。
2年連続のファイナル進出は厳しくなりました。
転倒がSP、FS合わせて3度あり、苦手のフリップではエッジエラーも取られるなどジャンプのミスが相次ぎ、TESが伸びませんでした。
シーズン序盤ということもあってか、少し動きが重いなと感じました。
次戦エリック・ボンパール杯まで約3週間。
修正できるでしょうか。
浅田はジャンプのミスが大きく響いて6位。
左足のけがの影響で、滑り込みが足らなかったのは間違いなく、それが特にFS後半のジャンプに表れていました。
ただ、まだシーズン序盤、演技の完成度はこれから上がっていくと思いますし、あまり良い出来ではなかったにもかかわらず、PCSの評価はワグナーに次ぐ2番目だったことはポジティブにとらえてもいいのではないでしょうか。
また、スピンは全てレベル4、ステップはレベル3にとどまりましたが、GOEの方で最高評価+3を含む高い評価を受けました。
3Aが加われば今でも世界最高レベルの構成を持っている浅田選手ですから、まずは12月の日本選手権で世界選手権の切符をつかむことを目標に、調整してほしいと思います。
サハノヴィッチは低調な出来で7位でした。
SPを見ていて思ったのは体が重いなあということです。
いわゆるロシアンタイマーなのか、体型がかなり変化したことに苦しんでいるのが見て取れました。
将来を嘱望されていた1人だと思いますが、このままでは層の厚いロシア勢の中では埋もれてしまいます。
まずは普通にジャンプを飛べるようにならないと厳しいでしょう。
そして村上はシリーズワーストとなる10位。
このところずっと課題となっているジャンプの回転不足をかなり取られたことが大きく響きました。
3Lzを飛ばない村上にとって、合わせて3度飛ぶ3Fが得点源ですが、いずれも回転不足で、うち2度はダウングレードという大きなミスになってしまいました。
また、SP、FSとも1本目のジャンプが回転不足となっているのが演技全体に悪影響を及ぼしているように感じました。
自信のなさから来ているのか、演技にスピード感がなかったことも大きな要因だと思います。
リベンジの舞台はわずか2週間後のロステレコム杯。
キャリアの中でも正念場と言える状況の中、復活はあるのでしょうか。
最後に暫定のポイント表です。
では男子に移りたいと思います。
結果は以下の通り。(カッコ内はSP+FSの得点、その横の数字はSPとFSの順位)
1 宇野昌磨 279.34(89.15+190.19)SP1 FS1
2 ジェイソン・ブラウン 268.38(85.75+182.63)SP3 FS2
3 アダム・リッポン 261.43(73.97+156.36)SP2 FS3
4 セルゲイ・ボロノフ 245.28(78.68+166.60)SP5 FS5
5 金博洋 245.08(72.93+172.15)SP8 FS4
6 ナム・グエン 239.26(79.62+159.64)SP4 FS7
7 マキシム・コフトン 230.75(67.43+163.32)SP10 FS6
8 ティモシー・ドレンスキー 226.53(77.59+148.94)SP6 FS8
9 ヨリック・ヘンドリックス 224.91(76.62+148.29)SP7 FS9
10 ブレンダン・ケリー 211.76(71.62+140.14)SP9 FS10
昨シーズンのファイナリストの村上大介、実力者のデニス・テンがそれぞれ欠場となったものの、実力者がそろった開幕戦を制したのは宇野昌磨でした。
まず、SP、FSとも冒頭の4Fを着氷したことが流れを作りました。
直前の6分間練習では決まっていなかったものが本番でできるあたりに、改めて精神力の強さを感じました。
また、FSの4Tや3A+3Tでは2点を超える大きな加点を得ており、PCSでもFSでは9点台が出るなど、昨年からさらに1ランク上がったという印象です。
SP、FSともに得点源となるコンビネーションで1つずつミスがあったので、ノーミスでいけばSP100点台、FS200点台に届くことが今回示され、合計300点超えも視野に入ってきました。
次戦は2週間後のロステレコム杯で、世界王者フェルナンデスと直接対決です。
すでに300点台を出しているフェルナンデスにどこまで迫れるか、それとも勝つようなことがあるのか。
そしてファイナル1番乗りを決められるか、注目です。
2位に入ったのは地元アメリカのブラウン。
SP、FSとも4Tは決まらなかったものの、それ以外の要素はほぼ完ぺきでFS、合計でPBを更新、地元ファンの期待に応えました。
4Tが1本でもここまでの高得点が出た要因は加点の多さと、PCSの高さです。
ジャンプだけでなく、体の大きさと柔軟性を生かしたスピンやステップでも大きな加点を得ており、FSの加点合計は10点を超えています。
また、以前から高く評価されていた表現もさらに磨きがかかっているという印象で、FSではPCSで9点台を3項目並べました。
4Tが決まれば今回の宇野の点数はまず上回ってくるでしょうし、PCSが高いため大崩れもしにくいです。
自身初のファイナルを見据えて、2戦目NHK杯ではどんな滑りを見せてくれるのでしょうか。
3位も地元アメリカのリッポンが入りました。
SPは4回転を入れず、FSでも4T1本のみという構成でしたが、昨シーズン6位に入った世界選手権で出したPBに迫る高得点を叩き出しました。
「ブラウンと同じ路線で行く」と明言したとおり、4Tこそ転倒したものの、それ以外の要素では全て加点がつくという素晴らしい出来でした。
特に「リッポンルッツ」と称される両手を挙げた3Lzは、FSで最高評価をつけたジャッジもいました。
PCSも8点台中盤と高い点数をそろえており、前述の世界選手権で自信をつけたのか、26歳とベテランの域に入っても進化を続けています。
次戦エリック・ボンパール杯も楽しみです。
4位はロシアのボロノフでした。
SPで転倒のあった4TをFSでは見事に成功。
3Fでエッジエラーがあった以外はほぼ完ぺきな演技で、FSはPBまであとわずかという高い得点をマークしました。
29歳と大ベテランの領域ですが、その経験を生かした円熟味のある演技で加点を重ねていきました。
本当に息の長い選手で、それでいてまだ世界レベルで勝負できるというのは凄いとしか言いようがありません。
それにしても、今大会は本当に技の質で勝負する選手が軒並み上位に来たなあという感じですね。
金はSPでの出遅れが響いて5位。
女子のゴールド同様、2年連続のファイナル進出は厳しくなりました。
基礎点は高いものの、出来栄えがよくないと上位には行けないということを改めて感じさせられました。
SPでは4Lzと4Tでいずれも転倒し、コンビネーションにできず、3Aも着氷でバランスを崩しました。
FSでは冒頭の4Lzを成功させる意地を見せましたが、その後はプラス評価のジャンプが2つだけと得意のジャンプで苦しみました。
しかしFSでは、ローリー・二コルに振付を依頼し、表現力強化に取り組んでいることが演技に表れていました。
実際、PCSもあれだけジャンプのミスが出た中では、昨シーズンと比べると相対的に上がっていると思います。
ジャンプが決まるとより怖い存在になりそうです。
グエンは大きなミスなくまとめましたが、SP4位から順位を下げて6位でした。
昨シーズン絶不調だったジャンプは復調の兆しがありますが、GOEによる加点が少なく、1点以上の加点を得たのはSPの4S+3Tだけでした。
SPはPB、合計でも2シーズン前の世界選手権で5位に入った時に出したPBに近い点数は出たものの、ライバルのレベルが上がっているので、このままではその中で埋もれてしまいます。
まだ18歳と若く、チャン引退後のカナダを背負う存在となるためにも、もう一皮むけたいところです。
コフトンもSP最下位から巻き返したものの7位にとどまりました。
SPでは4Tと3Aがそれぞれ2T、1Aになり、無効要素で0点になってしまいました。
ジャンプの抜けがSPでは致命傷になるということが改めて示されました。
FSでは2種類の4回転を決めるなど立て直してきましたが、疲れが出た後半でジャンプのミスが出ました。
ロシア選手権では3連覇中で、若きエースとして期待されているコフトンですが、このところ少し苦しんでいます。
1か月後の中国杯までに立て直せるでしょうか。
こちらも最後に暫定のポイント表です。
ということで、前評判の高い女子だけでなく男子も地元アメリカ勢が躍動した今大会。
表彰台のラインが男子は260点台、女子も190点に迫るというハイレベルな争いの中で、日本は男女とも表彰台を確保しました。
優勝した宇野は、まだ18歳とは思えないほどの風格を感じました。
そして3位の三原にとっては本当に価値のある、実力で勝ち取った表彰台になりました。
このメンバーの中で表彰台に上がれたのは何よりの自信になるでしょう。
次戦はスケートカナダ。
男子では羽生、チャン、閻涵、無良らが登場。
FSで4回転を3本入れてくる選手が多く、華麗な4回転の競演に注目です。
女子ではメドベデワ、宮原、トゥクタミシェワ、長洲らが登場。
世界女王メドベデワの勢いは今シーズンも続くのか、それとも宮原やトゥクタミシェワらがそれを阻止するのかという構図に注目です。