いろいろな試算を少し本格的にやってみる。

気の向くまま、いろいろな試算をします。(ゆる~くではなくなってきたのでタイトルを変えました) 基本的にスポーツは何でも見ます。競技によっては人並み以上に知識もあります。 少しでも需要があればいいかなと思いますので、批判も含めたご意見・ご感想をお待ちしています。

フィギュア女子シングル2枠をめぐる争いを振り返って。~厳しい戦いの末に~

こちらでの本格的な記事の一発目は、私の原点であるフィギュアスケートでと決めていました。

平昌オリンピックを前に書きたいと思い、選んだテーマは女子シングルの代表枠争いです。

先にお断りしますが、かなりの長文になります。(以下敬称略)

 

今シーズンの戦いは記憶に新しいところですが、オリンピックに向けた戦いは1年以上前から始まっていました。

昨シーズン、2016年の全日本フィギュア、すなわち五輪枠を争う、世界選手権の最終代表選考会。

 12位の浅田真央、8位の村上佳菜子はこれが引退試合となった。

そんな一つの時代が終わりを告げた大会を制したのは、全日本3連覇となった宮原知子

その年のグランプリファイナルでもメドベデワに次ぐ2位となっており、順当な結果であった。

2位と3位にはシニア1年目の樋口新葉三原舞依が入り、宮原とともに世界選手権代表に選出された。

新世代の台頭はオリンピックに向けて明るい話題となる・・・はずだった。

 

 

想定外の事態が起こる。

翌1月に宮原が股関節を疲労骨折したのだ。

2月に出場予定の2大会を回避し、回復を図って世界選手権出場を目指したが、間に合わず、補欠だった全日本5位の本郷理華が代替出場することとなった。

 本郷は国際経験は豊富だが、昨シーズンはケガの影響で満足のいく演技が出来ておらず、オリンピックの出場枠は実質、樋口と三原の高校生コンビに託された。

 

ソチ五輪後も日本が世界選手権3枠を維持し続けられたのは、エースとして引っ張ってきた宮原の活躍によるところが大きかった。

その大黒柱を欠いた中では、3枠を取るのは厳しいという見方が多数を占めた。

ところが、三原が急成長を見せる。

初出場の四大陸選手権で自身初の200点越えを果たして優勝したのだ。(四大陸初出場優勝は浅田真央以来の快挙)

若年性突発性関節炎という難病で、その1年前はジャンプすら飛べない状況だったのが信じられないぐらい、完ぺきな演技を見せた。

まさに、「ミス・パーフェクト」の異名を持つ宮原の魂が乗り移ったかのようであった。

 

そして迎えた世界選手権。

オリンピックの枠取りがかかっていることもあり、独特の緊張感が漂う中、SPでは樋口がほぼミスのない演技で9位につけたものの、本郷はコンビネーションの2つ目で回転不足を取られて12位、三原は最後の3Fが2回転となり転倒、15位と大きく出遅れてしまう。

五輪枠3(上位2人の合計順位13以下)のためには大きく順位を上げることが求められたFS。

日本勢で最初に登場したのは三原。

SPのミスを引きずることなく次々とジャンプを決めノーミス、四大陸で出したPBをさらに更新した。

続く本郷はジャンプのミスが続いて得点が伸びず、樋口の演技に全てが託された。

前半はミスを最小限にとどめましたが、演技後半で3Lz-3Tが2Lzになる痛恨のミス。

最後の2Aに3Tをつけてリカバリーを図りましたが転倒。

6人を残したところで三原が暫定1位、樋口は暫定6位となります。

残る6人のうち、チェンとソツコワは国際大会での実績が乏しく、カナダの2人(デールマン、オズモンド)はFSに難がある。

3枠の可能性がなくはないと思っていましたが・・・

結果、ポゴリラヤが大崩れしてしまった以外は大きな波乱はなく、三原が5位、樋口が11位、本郷が16位となり、日本の五輪枠は2枠となりました、

 

しかし、頑張った彼女たちを責めることは決してできません。

本当にあとわずかの差だったのです。

むしろ、厳しい状況の中で3枠に届くんじゃないかという夢を見させてもらったこと、心震わせる演技を見せてくれたことに感謝したいと思いました。

 

迎えた今シーズン。

当初は、ケガからの復活を期すエース宮原、昨シーズン最終戦の国別対抗戦でハイレベルな得点を叩きだした三原と樋口の3人が頭一つ抜けている印象があり、それを経験豊かな本郷と、シニアデビュー組の坂本花織、本田真凛、白岩優奈が追いかけるという構図と見ていました。

グランプリシリーズでは、樋口が200点台を連発してファイナル進出、また宮原も2戦目で復活優勝を果たし、繰り上がりながらファイナル出場を決めた。

日本からのファイナル進出はその2名だったが、三原も200点台を連発、坂本は2戦目で210点を越えて2位、本郷、本田、白岩も2戦目で点数を上げて来ており、代表争いをする選手たちの全日本に懸ける思いの強さを感じた。

 

そして全てが決まる全日本。

SPで首位発進を決めたのは坂本だった。

上り調子の勢いそのままに、上位勢で唯一のノーミス。

2位は宮原。

コンビネーションの2つ目で回転不足を取られたが、高いPCSでカバーし、坂本と微差につける。

3位には3Lzでアテンションがついたものの、70点越えを果たした本郷がつけた。

以下、樋口、本田、三原、白岩と続く。

4人ともジャンプにミスが出たのが響いた。

坂本と白岩の差は約10点、坂本と樋口は5点未満の差で、多くの選手に可能性を残したまま、勝負のFSを迎える。

 

代表を争う選手で最初に登場したのは白岩。

完璧な演技が求められましたが、終盤の3連続コンビネーションで転倒。

非公認ながらPBを超える得点を出しましたが、順位を上げるには至りませんでした。

LzとFをクリーンに跳び分けられ、高さのあるジャンプを武器とする白岩ですが、昨シーズン前には足の骨折、昨シーズン中も全日本の前に腰を疲労骨折するなどのケガを乗り越えてきました。

まだ16歳と若く、表現面でもまだまだ伸びしろがあると思いますので、これからの成長が楽しみです。

 

続いて登場したのは三原。

FSの安定感には定評がありますが、この大舞台でも素晴らしい演技を披露。

終盤の3連続コンビネーションで回転不足こそあったものの、140点の大台に乗せ、トータル200点を超えてこの時点でトップに立ちますが、最終的には5位、オリンピック出場はなりませんでした。

悔やまれるのはやはりSPで、今シーズンは一度もクリーンに滑り切ることができませんでした。

また、グランプリシリーズでは強豪が揃う2大会への出場だったため、共に200点台だったにもかかわらず表彰台に乗れなかったことは、不運だったとしか言いようがありません。(このことがPCSに多少なりとも影響したと思われる)

ただ、今シーズンのSPの選曲(リベルタンゴ)を考えると、目の前のオリンピックだけではなく、先のことを見据えて挑戦する姿勢が垣間見えます。

何より、難病を乗り越えてきた不屈の精神力があります。

先日の四大陸選手権でもモチベーション維持が難しい中で、トータルSBの素晴らしい演技で2位表彰台に上がりました。

この経験が彼女をさらに強くしてくれると信じ、これからも応援し続けていきたいと思います。

 

残るは最終グループ。

最初に登場したのは樋口。

SPで抜けてしまった冒頭の2Aはきっちり修正したものの、中盤の3Sが2回転になり、3Lz+3Tの2つ目が回転不足となったことが響き、140点には届かず。

この時点でトップには立ったものの、最終的には4位となり、オリンピック出場はなりませんでした。

FS前日の公式練習で足首を痛めたという不運に見舞われたことも、無関係ではなかったはず。

それでも強い気持ちを持って戦い続けた彼女の姿は、ファンの目に焼き付いています。

 昨年の世界選手権で、最後にリカバリーを図ろうとしたのも、枠取りに対する強い気持ちの表れであり、極限の状況の中でも冷静さを失わない。

何より、まだ17歳になったばかりなのです。

これまでの実績が評価され、世界選手権への派遣が決まっていますので、そこで悔しさをぶつけて、今シーズンの集大成を見せてほしいと思います。

 

ジュニアの紀平が3A2本を決め、樋口を抜いてトップに立ち、次に登場したのは本田。

トップに立つには140点以上の高得点が必要で、完ぺきな演技が求められましたが、3回転が2回転になるミスが2度、回転不足も1つ取られ得点を伸ばせず、7位でオリンピック出場はなりませんでした。

ジュニア時代の実績があるため、シニア1年目の選手としては最初からPCSが高めではありましたが、今シーズンの国際大会では目立った実績を残せなかったため、そこから大きく上積みすることはできませんでした。

オリンピックに出場するためには、シーズン序盤でジュニア時代のPB(201.61)を更新しておかなければならなかったと思います。

 

とはいえ、ここまで積み上げてきた実績が色褪せることはなく、まだまだこれからの選手です。

この悔しさをバネに、表現で魅せる選手になっていってほしいと思います。

 

残るはSPのトップ3。

まず登場したのは宮原。

ジャンプでは1つ回転不足があったものの、リハビリ中に磨き続けたスピンやステップで魅せ、コレオと最後のレイバックスピンではなんとGOE満点。

PCSも全項目で9点台を揃え、非公認ながら147点を超えるハイスコアを叩きだし、トータルでも220点を超えるスコアで見事4連覇を達成、オリンピック出場が内定しました。

ケガでの大幅な出遅れが心配されていましたが、この大舞台に合わせ、そこで力を発揮する精神力の強さは、まさに日本のエースにふさわしい。

結局、ソチ後は一度も全日本女王の称号を他の選手に譲らなかったのです。

グランプリファイナル、四大陸選手権、世界選手権のすべてでメダルを獲得しており、国際大会での実績は今回の五輪出場選手の中でも屈指のものがあります。

先日の四大陸ではミスが出て3位になりましたが、オリンピックの本番では最高の準備をして臨んでほしいと思います。

 

続いて登場したのは本郷。

課題だった回転不足を2つとられ、2度の転倒もあり、得点を伸ばせず6位、オリンピック出場はなりませんでした。

ただ、昨シーズン終盤、ケガで苦しんでいた時期に比べると格段に演技がよくなっているのは間違いありません。

6年前の全日本、初出場でFS最終グループに残り、最終滑走で完璧な白鳥の湖を披露した時のインパクトがいまだに残っており、長く活躍している印象がある本郷もまだ21歳。

他の選手にはない魅力の持ち主であり、息の長い選手になってほしいと思います。

 

そして、最終滑走は坂本。

自分の演技でオリンピック代表が決まる、という極限の緊張感の中、堂々とした演技を披露。

回転不足こそあったものの、140点に迫る高い得点を叩きだし、トータル210点越えで宮原に次ぐ2位。

シニア1年目にしてオリンピック代表に選出されることとなりました。

元々、高さと幅のあるダイナミックなジャンプには定評がありましたが、課題であったスピンやステップ、さらには表現面で急成長を見せ、一気にオリンピック代表に駆け上がりました。

ジュニア時代は14歳で全日本6位に入るなど、実力がありながらなかなか優勝に恵まれず、悔しい思いをしてきました。

しかし、昨シーズン全日本ジュニアで初優勝、世界ジュニアでもPBで銅メダルと実績を積み、今シーズン一気にその才能が開花しました。

坂本といえば、その明るいキャラクターに目が行きがちですが、冷静に自分を分析し、課題を見つけてそれを乗り越えられる強さを持っています。

先日の四大陸選手権でもPBをさらに更新し、同門の三原に続いて初出場初優勝を果たしました。

この勢いのまま、オリンピックでも最高の笑顔がはじけることを期待したいと思います。

 

というわけで、オリンピック代表は宮原と坂本に決まりました。

代表争いをしていた7人は、その過程の中でみんなケガで苦しんだり、挫折を味わう経験をしてきました。

だからこそ、今回の全日本ではジュニアの紀平を含む5人が200点越えを果たすという、オリンピック最終選考会にふさわしい、きわめてレベルの高い争いになったのだと思います。

代表の2人には、厳しい戦いを制した誇りを持って、世界を相手に戦ってきてほしい。

そして、代表になれなかった選手も、この厳しい争いの中、戦ったことに誇りを持ってほしい。

何より、これからを担う10代の選手が多い。

ここに、全日本で3位に割って入った紀平も加わり、来シーズン以降が楽しみで仕方ない。

彼女たちのスケート人生はまだまだこれから。

次への戦いは、もう始まっている。